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Shokabo-News No.400 2024/10/17
裳華房メールマガジン 2024年10月号
https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html
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★目次★
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【1】10月の新刊
『手を動かしてまなぶ 基礎数学』
『量子力学選書 量子と情報』
『メディカルスタッフのための 生物学』
『新・生命科学シリーズ 植物の生態(改訂版)−生理機能を中心に−』
【2】11月の近刊
【3】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(65):
『サはサイエンスのサ[完全版]』(鹿野 司 著、早川書房)
【4】裳華房の売上げランキング(2024年7〜9月)
【5】2024年秋・冬の裳華房フェアのご案内
【6】お知らせ&編集後記
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【1】10月の新刊
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●『手を動かしてまなぶ 基礎数学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1604-4.htm
富川祥宗 著/A5判/368頁/2色刷/定価3190円(税込み)/
2024年10月30日発行/ISBN 978-4-7853-1604-4 C3041
「高校数学なんてすっかり忘れてしまった!」、「職場でデータサイエンス
が必要になったけど、肝心の数学でつまずいてしまう」──そんな大学生や新
社会人に贈る独習書。
本書1冊で数学の基礎を固めて、スムーズに「微分積分」「線形代数」「確
率統計」に進もう。反復練習を意識した計算問題をドリル式に多数掲載!
【本書の特徴】
◎下記の単元を整理して1冊にまとめ、理系に必要な基礎数学の総復習本とし
ての利便性を高めた。
・現行の高校数学の中から理工系で頻繁に使われる単元(新学習指導要領を
参考に)
・「手を動かしてまなぶ」シリーズを読み解く上で欠かせない暗黙知の事項
や基礎となる単元
・SPI・資格試験やデータサイエンスに強く関連する基礎数学の単元および
問題
◎全体のあらすじとシリーズ各巻とのつながりを見渡せるよう、冒頭に「全体
の地図」を設けた。
◎本文中で読者が行間を埋める必要があるところにアイコンをつけ、その具体
的なやり方を別冊「行間を埋めるために」でウェブ公開した(後日公開予定)。
◎独学でも読めるように、節末問題の丁寧で詳細な解答を無料でダウンロード
できるようにした(後日公開予定)。自習学習に役立ててほしい。
ほか
【主要目次】
1.論理と式
2.漸化式と方程式
3.微分と積分
4.ベクトルと行列
5.確率と統計
●『量子力学選書 量子と情報』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2515-2.htm
細谷曉夫 著/A5判上製/288頁/定価4180円(税込み)/
2024年10月25日発行/ISBN 978-4-7853-2515-2 C3042
21世紀は、量子力学の基本原理を利用した情報技術の世紀ともいえる。本書
では、その基本原理がどのように活用されているかを具体的に見ていきながら、
基礎科学としての量子力学と情報科学の関係を解説した。
量子情報の中核となるのは、量子測定理論である。そこで、量子力学の基本
からはじめて、古典情報理論をお手本に量子測定理論を展開していくという構
成とした。その後は、トピカルな話題であるエンタングルメントと弱値を取り
上げ、最後に量子計算の概略を解説する。
量子情報に興味がある方へ向けた入門書として、じっくりと取り組んでいた
だきたい1冊である。
【主要目次】
1.粒子と波動
2.量子力学の公理
3.混合状態
4.古典情報理論
5.熱力学のエントロピー
6.量子情報エントロピー
7.量子測定理論
8.量子測定理論の応用
9.量子エンタングルメント
10.弱値
11.量子計算の基礎(I)
12.量子計算の基礎(II)
13.ショアによる素因数分解のための量子アルゴリズム
●『メディカルスタッフのための 生物学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5247-9.htm
道上達男 著/B5判/202頁/4色刷/定価3190円(税込み)/
2024年10月20日発行/ISBN 978-4-7853-5247-9 C3045
本書は、『メディカルスタッフのための生物学』というタイトルのとおり、
医療・看護系の学生が基本的な生物学の知識を効率的に学ぶことができるよう
に配慮した。内容も、ヒトのからだの構造の基本と、それを理解するための、
大学・専門学校での教養課程で履修するレベルの基礎知識を記載した。
またコラムを随所に配置し、本文に関連する病気などの紹介も多く含めた。
【主要目次】
第I部 「人間を知る」ための基礎知識
1.細胞とその機能
2.遺伝子とDNA
3.タンパク質と代謝
第II部 人間を知る
4.体の構造と機能の基礎
5.消化器系
6.呼吸器系・循環器系
7.泌尿器系
8.筋肉・骨格系
9.免疫系
10.内分泌系
11.神経と感覚器
12.生殖と発生
第III部 人間と社会
13.バイオテクノロジー
14.薬学・医学
15.生物多様性と生態学 −自然と人間の関わり−
●『新・生命科学シリーズ 植物の生態(改訂版) −生理機能を中心に−』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5877-8.htm
寺島一郎 著/A5判/288頁/2色刷/定価3300円(税込み)/
2024年10月5日発行/ISBN 978-4-7853-5877-8 C3045
植物生理生態学の基本的な教科書の改訂版。今回の改訂では、必要な修正を
施すとともに、基本的な記述を充実させ、植物生態学、植物生理学、植物分子
生物学を学ぶ学生にとってより一層役立つ書籍となった。
なお、発展的な内容は「電子補遺」として裳華房Webページに掲載しており、
本書とあわせて通読すれば、さらに各分野の専門書を読む力をつけることがで
きるであろう。
【電子補遺】(PDFファイル)
https://www.shokabo.co.jp/author/5877/app5877.pdf
【主要目次】
1.はじめに:生態学とはどういう学問なのだろうか
2.生物の環境適応
3.陸上植物の進化
4.植物の特徴:個体,細胞,組織と器官
5.植物と水
6.植物の光環境と光吸収
7.光合成のあらまし
8.光合成の生理生態学
9.呼吸と転流
10.無機栄養の獲得
11.成長と分配
12.陸域生態系の生態学
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【裳華房 新刊一覧】 https://www.shokabo.co.jp/book_news.html
【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html
【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/
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【2】11月の近刊
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※詳しくは次号にてご案内いたします。
●『熱力学講義』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2829-0.htm
Benjamin Widom,甲賀研一郎 共著/A5判/182頁/定価2530円(税込み)/
2024年11月5日発行/ISBN 978-4-7853-2829-0 C3042
●『物理学レクチャーコース 素粒子物理学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2415-5.htm
川村嘉春 著/A5判/362頁/定価4070円(税込み)/2024年11月25日発行/
ISBN 978-4-7853-2415-5 C3042
●『半導体物理学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2927-3.htm
中山正敏・塚田 捷・名取研二・名取晃子・齋藤理一郎・福山秀敏 共著/
A5判上製/566頁/定価9680円(税込み)/2024年11月25日発行/
ISBN 978-4-7853-2927-3 C3042
●『スッキリわかる 化学工学』
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3529-8.htm
二井 晋 編著、小林敬幸・向井康人・橋爪 進・衣笠 巧 執筆/
B5判/152頁/定価2640円(税込み)/2024年11月25日発行/
ISBN 978-4-7853-3529-8 C3058
※上記以外にも刊行を予定している書籍がございます。詳細が決まり次第、
裳華房Webサイトにてご案内いたします。
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【電子書籍のご案内】 https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html
【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html
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【3】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第65回)
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ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんに、お薦
め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます。
・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/
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◆ 「鹿野さん、ごくろうさまっ」 ◆
●『サはサイエンスのサ[完全版]』(鹿野 司 著、早川書房)
この“読書ノート”の連載のもうひとりの執筆者である鹿野司さんがこの世
を去って2年、鹿野さんのライフワークと言うべき科学コラム連載の全部が、
一冊の本にまとまって出版された(2024年9月刊)。
「サはサイエンスのサ」は1994年から2022年の死の直前まで、「SFマガジ
ン」誌に掲載された。2010年1月には、それまでの掲載分の中からのより抜き
で単行本化され、その年の優れたSF及びSF関連作品を表彰する星雲賞を受
賞している(第42回[2011年]、ノンフィクション部門)。
完全版と銘打たれた今回の本は、28年間の連載のすべてを収録している。全
648ページ、書きも書いたり28年という印象だ。
お値段も消費税込み4840円とけっして安くはない。が、これは是非とも買っ
て読んでほしい。ここには鹿野司という透徹した知性が遺した、科学について、
社会について、人間についての思考がすべて詰まっている。
この大部を読んでいくと、鹿野さんの立場が一貫していることに気が付く。
ひとつは「未来は明るい」という楽観的な視点だ。その一方で、彼は明るさ
に至るまでの道のりが簡単にはいかないというリアリズムも併せ持っている。
もうひとつは、「なんだよね」という語尾が醸し出す、「エラそうでない」
感だ。彼は、けっして上からの物言いで物事を語ることはしなかったし、難し
い単語を並べて人を煙に巻くようなこともしなかった。親しみやすい物言いで、
難しいことを平易に語った。
このあたりは、実は本人に会って話していても同じだった。その意味では、
鹿野さんにとっての科学コラムとは、本人の人格の発露でもあった、という気
がする。
──と、いうようなことは、今更言うまでもないのかもしれない。本書の巻
末に収められた堺三保氏の手による解説も、鹿野さんの楽観性と、上からは語
らず低いところから上を語る視線について語っている。ちなみに本書には、映
像作品の設定考証で付き合いのあった白土晴一氏、裳華房“読書ノート”の連
載をともに担った私、そして締めに親友であったマンガ家のとり・みき氏と、
3人が追悼文を寄せている。
28年分を通して読むと、鹿野さんには、一貫していくつかのテーマに興味が
あったということが見えてくる。
まず人間。それも人間の認知の仕組みのありようだ。本書の中で鹿野さんは
何度も、「人間の非合理な認知」について語っている。類人猿が現実をあるが
ままに受け止めているのに対して、人間の認知は、色々と歪んでいる。しかし、
その認知の歪みこそが人間を人間たらしめ、文化を創る原動力となっていると
いう主張が、本書では何回も繰り返される。
そして進化論。正確には進化論というよりも生命は、さらには知性というも
のは一体どこに向かうのかという、生命進化に伴う倫理だ。これは先述した人
間の認知の歪みと相まって、人を人たらしめている非合理性が、人をどこに導
くのかという問題意識につながる。
そう、「サはサイエンスのサ」は、タイトルにサイエンスと銘打ちながらも、
実は科学のみを語っている回は非常に少ない。ほぼ毎回、科学と人間存在(人
間の認知)、科学と人間社会、科学と倫理というように、つまるところ「科学
と我々」と要約できる内容を展開している。
その意味で、鹿野さんが目指したものは、理系的な知と人文的な知の統合で
あったように思われる。人間にとって圧倒的な存在である自然を、宇宙を、理
系的な知で理解しつつ、その確固たる理系の知のバックグラウンドの上に、
「人間は、社会は、どうなるのか、どうあるべきか」という人文的な知を展開
しようとしていたという気がする。
このような統合を目指した人は前にもいた。例えば南方熊楠(1867〜1941)
がそうだ。高野山の学僧・土宜法龍(1854〜1923)への書簡に現れる「南方マ
ンダラ」と呼ばれる図は、南方が文理の知、主観・客観の知をひとつのパース
ペクティブの中に統合することを夢見ていたことを示している。
南方と鹿野さんを分けるのは、その統合の中での主観の位置付けだろう。
南方は自然と自分の関係を、対等のものとして考える。自然科学とは別に、
「自分の主観において、自然はどのように見えるか」を重要視するわけだ。南
方は、幼少時に「和漢三才図会」を筆写するところから、知の探求を開始した。
和漢三才図会は、基本的に目に映る自然を主観の側から捉えていったカタログ
だ。だからその中には、幽霊や人魂のようなものも入っている。
和漢三才図会から出発した南方熊楠において、主観と客観は対等に拮抗する
ものだった。
対して鹿野さんは、熊楠よりも近代人だ。近代の思考の特徴は、「自分を特
別なものと考えない」というところにある。
平凡原理と呼ばれる思考の原則がある。地動説が思考の端緒にあることから、
コペルニクスの原理とも称される。
天動説では、地球は宇宙の中心という特別な場所にある。しかし、コペルニ
クスの地動説では、地球は世界の中心ではない。世界の中心は太陽に移り、地
球は他の惑星とともに太陽の周囲を回るという、より平凡な位置を占めること
となる。
その後の天文学の進歩により、太陽もまた宇宙の中心という特別な位置から
滑り落ちた。太陽は銀河系という多数の恒星の集団の中のひとつの星に過ぎな
い。もちろん銀河系の中心に位置しているわけでもない。そして、銀河系も特
別な場所ではない。宇宙に存在する多数の銀河の中の、ごく平凡なよくある銀
河でしかない。
同じようなことは人間という存在についても言える。たとえばキリスト教で
は、人間は神と契約した、他の動物とは異なる特別な生き物だ。その後、ルネ
サンス期を迎えても、人間は言葉を持ち道具を使い大規模な社会を形成する、
他の動物から隔絶した特別な生き物だ、という認識は続いた。
チャールズ・ダーウィン(1809〜1882)が、『種の起源』(1859)を著した
ところから、人間存在の平凡化が始まる。進化が事実なら、人間と動物はつな
がっており、人間は動物の一種ということになる。動物学の進歩により、道具
を使う動物もいれば、社会を構成する動物もいるし、かなり複雑な言語に相当
するシグナルを呼び交わす動物がいることも分かってきた。
では、人間を人間たらしめているのは何か。高い記憶力か、自分を自分と認
識できる自我か、それとも抽象概念を扱えることか。心理学や脳科学の発達で、
それらも怪しくなっていく。人間は進化により、一層優れた存在になったので
はなく、外界への適応形態として、自我という道具を形成し、抽象概念を扱え
るようになったのだ、ということが明らかになってきた。
鹿野さんは、科学が平凡化原理を徹底していくことを受け入れて、さらにそ
の先を考えていこうとする。「我々の脳の中には、論理的な思考をする専用回
路のようなものは、たぶん存在しないんじゃないかな。推論は、ある分野の膨
大な知識があってはじめてできるのであって、論理的な思考力ってのはそのプ
ロセスから浮かび上がる見かけ上の存在というか、幻のようなものじゃないか
って思うんだよね。」(本書p.491 「進化論が理解しにくいのは(その6)」)
とか、さらっと書いたりもする。
その一方で、前提として「今のところ知られている動物の中で、唯一ヒトだ
けがやる特別な行動がある。それはヒトがものすごくお節介で、教えたがりっ
てことだ」(本書p.489)と指摘したりもする。多少風変わりではあるが、別
に特権的地位を占めるわけでもない平凡な生き物の一種としてヒトをとらえ、
ヒトと自然の関わりを考察していく。
鹿野さんの視線は、けっして人間や人間社会というものを突き放したりはし
ない。間違った主張……いわゆるトンデモ科学……について、それは間違って
いると指摘しつつも、人間はそういう「物語」を必要とすることもある、とし
て、全否定で徹底的に叩くということはしていない。
その一方で、福島第一原子力発電所の事故を契機に書かれた一連の「ほうし
ゃのうの恐怖」と題したシリーズでは、社会の中の放射線、放射性物質への恐
怖が、歴史的経緯の中で過大になっていることをあっさりと身も蓋もなく指摘
したりもする。
「でも、ぶっちゃけ、高エネルギー廃棄物は、過去50年くらいに稼働した原
発すべてからでてきたものの合計で数十万トンのオーダーでしかない。これっ
て重さにして大型タンカー一隻とか二隻分だ。
これに比べたら、ナントカしなきゃいけないといわれる炭酸ガスの量は、年
間五百億トンのオーダーだからなあ。」(本書p.469)というくだりは、連載
時に読んで、確かにそうだと思った。
当時私は、「一度海水に放出されたら回収不可能で、有史以来人類が水銀を
採掘・利用し始めてから増え続ける一方の海水中の水銀と、1000年のオーダー
で見れば確実に消えることが物理的に分かっている放射性同位体とで、どちら
が本質的に危険なのか」と考えていたので、鹿野さんの指摘に、「お説ごもっ
とも」と頷くしかなかった。
ああ……、20代から「ログイン」誌で長期連載した「オールザットウルトラ
科学」がホップ、「サはサイエンスのサ」がステップなら、この次にはジャン
プがあったのではなかろうか。もし鹿野さんが“ジャンプ”を書くことができ
たならば、それが南方熊楠が目指しつつも果たせなかった、主観と客観を統合
した総合的な世界の見取り図の提示に至っていたのではないだろうか──本書
を読んでいくとそんな気分になる。
「オールザットウルトラ科学」が鹿野さん20代から40代、「サはサイエンス
のサ」が30代から63歳で逝去するまでの仕事と考えると、あと30年、いや20年
でも時間があれば、なにか“ジャンプ”があり得たのでなかろうか。
それを許さなかったのは、鹿野さんの体を蝕んだ病気──解説で堺さんが書
いているから、ここに記してもいいだろう──糖尿病だった。
「鹿野君は『堺君や白土君に、自分の病気の話をすると、怖い怖い〜って、
逃げちゃって聞いてくれないんだよなあ』と言っていた」とは、葬儀に参加し
ていたデザイナー・映画監督の出渕裕さんの言である。理知的な堺・白土両氏
が恐れて逃げる──それぐらいに壮絶な闘病は、「サはサイエンスのサ」を連
載していく中でも度々本人が書いている。
きちんと節制もするし、テニスや自転車で日頃からせっせと体を動かしてい
た鹿野さんが、なぜ重度の糖尿病を発症したのか。今となっては何が原因かを
詮索しても意味はないのだろうけれど、不思議である。
ひとつはっきりしているのは、鹿野さんが最後まで病気と科学的・合理的に
戦ったということだ。つらくなかったはずはないし、自分の死を考えると怖く
なかったはずもない。しかし、積極的に病院に通い、必要なら入院し、手術も
受け、打てる手を意志的にひとつずつ打って、ひるまなかった。
しかも、そこにはいつも、なにがしかのユーモアを漂わせていた。
鹿野さんが亡くなられた後、とり・みきさん以下友人一同が、最後の住処を
片付けに訪問した。まずはパソコンの中の原稿類をサルベージしなくてはいけ
ないが、パスワードが分からない。
すると、ディスプレイの裏側に、付箋が貼ってあるのが見つかった※。鹿の
イラストが入った付箋に、鹿からの吹き出しに曰く「パスワードは9317ダヨ」。
自分に万一のことがあったら、という覚悟があったのだろう。
たしかに、9317でパソコンのロックは解除できて、原稿はまとめてサルベー
ジされた。
9317──すなわち「クサいな」。
もうっ、鹿野さんっ……自分の死に備えて準備するパスワードがそれ? 私
は泣けばいいのか笑えばいいのか分からなかった。
いや、「泣くのはイヤだ、笑っちゃおう」。今、私たちの手元には『サはサ
イエンスのサ[完全版]』があるのだから。
あらためて笑って言おう。「鹿野さん、ごくろうさまっ」。
※編集部註:付箋の画像は裳華房Webサイトの本コラムのバックナンバー頁に
掲載してます。
https://www.shokabo.co.jp/column/matsu-65.html
【今回紹介した書籍】
●『サはサイエンスのサ[完全版]』
鹿野 司 著/A5判/648頁/定価4840円(税込み)/2024年9月25日発行/
早川書房/ISBN 978-4-15-210360-4 C0040
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0005210360/
※電子書籍もあります。
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000614650/
【松浦晋也さんのプロフィール】
ノンフィクション・ライター。1962年東京都出身。現在、日経ビジネスオンラ
インにて「チガサキから世間を眺めて」を連載の他、「Modern Times」
「Viwes」「テクノトレンド」などに不定期出稿中。近著に『母さん、ごめん。
2──50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』(日経BP社)がある。そ
の他、『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』『はやぶさ2の真実』『飛べ!
「はやぶさ」』『われらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』
『恐るべき旅路』『のりもの進化論』など著書多数。
X(旧Twitter)アカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura
「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2024
※本コラムは本メール配信後、なるべく早い時期にWebサイトに掲載する予定
です。
https://www.shokabo.co.jp/column/
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【3】裳華房の売上げランキング
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2024年7〜9月(3か月間)ベスト10です。各分野別ランキングは下記サイト
をご参照ください。
https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking2024-3.html
なお、いずれも新刊刊行時の書店配本分や、大学等での採用品(教科書)と
しての注文分は除いております。
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◆◆◆【2024年7〜9月(3か月間)ベスト10】◆◆◆
https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking-best10.html
1.『手を動かしてまなぶ 群論』 原 隆 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1603-7.htm
2.『手を動かしてまなぶ 集合と位相』 藤岡 敦 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1587-0.htm
3.『物理学レクチャーコース 物理数学』 橋爪洋一郎 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2410-0.htm
4.『手を動かしてまなぶ 線形代数』 藤岡 敦 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1564-1.htm
5.『量子力学選書 場の量子論』 坂本眞人 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2511-4.htm
6.『物理学レクチャーコース 電磁気学入門』 加藤岳生 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2411-7.htm
7.『マクスウェル方程式から始める 電磁気学』 小宮山 進・竹川 敦 共著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2249-6.htm
8.『基礎物理学選書5A 量子力学T(新装版)』 小出昭一郎 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2142-0.htm
9.『大学演習 熱学・統計力学(修訂版)』 久保亮五 編
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-8032-8.htm
10.『手を動かしてまなぶ フーリエ解析・ラプラス変換』 山根英司 著
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1594-8.htm
https://www.shokabo.co.jp/ranking/ranking-best10.html
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【5】2024年秋・冬の裳華房フェアのご案内
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この秋〜冬に開催予定の、大学生協書籍部や大学内書店における「裳華房フェ
ア」の一覧です。
お近くにお越しの際には、ぜひお立ち寄りください。>関係する大学の皆様
https://www.shokabo.co.jp/fair/2024fair.html
●開催予定(地方別・開催日順)
【北海道・東北】
・北海道大学生協 クラーク店
期間:11/1 〜 11/29
・北海道大学生協 北部店
期間:11/1 〜 11/29
・弘前大学生協 大学会館SHAREA店
期間:11/5 〜 12/25前後
・岩手大学生協 購買中央店
期間:11/5 〜 12/25前後
・東北大学生協 工学部店(book+cafe BOOOK)
期間:12/2 〜 12/25前後
【関東(東京都を除く)】
・茨城大学生協 水戸購買書籍部
期間:12/2 〜 2025/1/31
・茨城大学生協 日立購買書籍店
期間:12/2 〜 2025/1/31
・東京理科大学生協 野田店
期間:11/1 〜 2025/1/17
・慶應義塾生協 矢上店
期間:12/2 〜 2025/1/31
・紀伊國屋書店 東海大学ブックセンター
期間:10/28 〜 12/20 【New!】
【東京都】
・東京理科大学生協 葛飾店
期間:11/1 〜 2025/1/17
・紀伊國屋書店 東京理科大学神楽坂ブックセンター
期間:11/1 〜 2025/1/17
・東京電機大学生協 東京千住店 書籍購買部
期間:11/6 〜 12/25前後
・東京農業大学生協 世田谷購買書籍部
期間:10/28 〜 12/25
【北陸・中部】
・信州大学生協 松本購買書籍部
期間:11/5〜12/20
・名古屋工業大学生協 Campla店
期間:11/5 〜 12/25
【関西】
・大阪大学生協 豊中店
期間:12/2 〜 2025/1/31(予定) 【New!】
・立命館生協 リンクショップ
期間:12/2 〜 2025/1/31
・同志社大学生協 京田辺ブック&トラベル
期間:12/2 〜 2025/1/31
【中国・四国】
・岡山大学生協 ブックストア
期間:12/2 〜 2025/1/31
上記以外にも検討中・打診中の店舗もございます。詳細が決まり次第、裳華房
Webサイトにてお知らせいたします。
https://www.shokabo.co.jp/fair/2024fair.html
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【6】お知らせ&編集後記
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◇お知らせ
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1.「2024-25年度 裳華房 総合図書目録」
https://www.shokabo.co.jp/catalogue/
2.書店・生協様のページ
https://www.shokabo.co.jp/sales/index.html
3.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」
https://www.shokabo.co.jp/support/index.html
4.東京・神保町の書泉グランデ「訳あり本フェア2024」に出品します!
https://twitter.com/rikoushonotana/status/1838859361919340632
「絶版本や、旧版、カバー無し、ページが折れていたり、ちょっと難ありの
“訳あり本”をお求めやすいバーゲン価格でご提供するフェアです」
期間:2024年10月22日(火)〜10月31日(木)
アクセス:都営三田線・都営新宿線・半蔵門線「神保町駅」A7出口より
徒歩1分
https://www.shosen.co.jp/grande/
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◇編集後記
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今年のノーベル賞は、二部門がAI関連の研究に授与という、ちょっとビッ
クリな結果でしたが、これも時代の流れなのかも知れません。
さて、お待たせいたしました、「松浦晋也の“読書ノート”」では、本メル
マガで松浦さんと一緒に連載を担っていただいていた鹿野司さんの『サはサイ
エンスのサ[完全版]』(早川書房)をご紹介いただきました。お手にとって
読んでいただきたい好著です。“読書の秋”に是非ご一読を。
(TK)
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次号は2024年11月中旬の配信予定です。
どうぞお楽しみに!\\(^o^)//
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