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裳華房メールマガジン (Shokabo-News)
バックナンバー(No.347;2018年9月号 8〜9月の新刊 ほか)

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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆   Shokabo-News No.347                2018/9/28   裳華房メールマガジン 2018年9月号   https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ★目次★ ─────────────────────────────────── 【1】新刊案内    『生物有機化学』『サイコロから学ぶ 確率論』    『専門課程 物理学実験(改訂版)』『基礎分子遺伝学・ゲノム科学』 【2】近刊案内    『データサイエンスの基礎 Rによる統計学独習』    『理工系のリテラシー 物理学入門』 【3】連載コラム 松浦晋也の“読書ノート”(36):    『ばくおん!!』(おりもとみまな 著,秋田書店)    『スーパーカブ』(トネ・コーケン 著,角川書店) 【4】お知らせ&編集後記 ─────────────────────────────────── ※配信が一ヶ月あいてしまいましたことをお詫び申し上げます。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【1】新刊案内(2018年8月〜9月刊行) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●『有機化学スタンダード 生物有機化学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-3425-3.htm 北原 武・石神 健・矢島 新 共著/B5判/192頁/2色刷/ 定価(本体2800円+税)/2018年8月発行/ 裳華房/ISBN978-4-7853-3425-3 C3043  生体を形づくる分子を有機化学の面からとらえ,その多様な物性と機能およ び代謝過程について,多数の構造式や反応経路を示しながらわかりやすく解説 した教科書・参考書.  主な生体分子(一次代謝産物)の基礎→一次代謝産物および二次代謝産物の 生合成→応用分野の概観という構成で,煩雑になりがちな生体分子について整 理・理解しやすい.章末の演習問題を通して理解度を確認しながら読み進むこ とができ,豊富なコラムや側注記事によって,生物有機化学の多彩な魅力に触 れることができるだろう. 【主要目次】 1.生物有機化学序論 2.炭水化物 3.脂肪酸と脂質 4.アミノ酸 5.ペ プチド・タンパク質 6.酵素と反応 7.核酸 8.微量必須成分:ビタミン ・ホルモン 9.光合成と糖代謝 10.一次代謝と生合成 11.二次代謝と生 合成(1)−生合成経路による分類:イソプレノイドの生合成− 12.二次代 謝と生合成(2)−生合成経路による分類:ポリケチド・フェニルプロパノイ ド・アルカロイドの生合成− 13.二次代謝と生合成(3)−生物活性物質の 機能による分類− 14.バイオテクノロジーと分子認識・人工酵素 ●『サイコロから学ぶ 確率論』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1577-1.htm 小林道正 著/A5判/224頁/定価(本体2600円+税)/2018年9月発行/ 裳華房/ISBN978-4-7853-1577-1 C3041  確率論は,偶然に起こる現象(偶然現象)における多数回の試行が基礎にな っており,「偶然現象に現れる規則性を理論としてまとめたもの」である.そ のため,公理系に基づく理論を学習しただけでは確率論を真に理解することは できず,多数回の試行を実際に行って,実験で確かめることがとても大切なの である.  そこで本書は,一般的な確率論の本とは異なるアプローチで,定理の前に偶 然現象の解説をし,「厳密な理論と証明」を示した後に,「実際の偶然現象で の意味,実験結果との対応を考える問題」を挙げて,身の回りの確率現象を例 にしながら理論的な定理の意味を解説するという工夫を行った.これによって, 多くの理工系学生が確率論を学んでいる際に感じる「この定理はどういう意味 なのか?」という疑問も少なくなり,見通し良く確率論を学ぶことができるで あろう. 【主要目次】 1.確率論の公理 2.確率変数とその性質 3.確率変数の期待値と分散  4.二項分布 5.大数の法則 6.中心極限定理 7.積率母関数 8.特性関 数 9.確率過程入門 ●『専門課程 物理学実験(改訂版)』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2260-1.htm 高野良紀・浅井朋彦・B. Zulkoskey 編/A5判/392頁/ 定価(本体4500円+税)/2018年9月発行/ 裳華房/ISBN978-4-7853-2260-1 C3042  物理学科で学ぶ2〜3年次生を対象とした物理学実験の教科書の改訂版.  旧版と同様の編集方針によって,実験で必要となる原理の説明をできるだけ 平易になるように心掛け,学生が実験に対して興味をもてるように実験テーマ にまつわる歴史的な出来事を盛り込みながら,実験で必要となる原理を丁寧に 解説した.  また,実験において要となるような結果を図示することにより,実験の精度 や実験値と理論値との違いに目が向くように配慮し,学生の科学英語の力を養 うために2つの実験テーマについては英文にした.  2018年発行の改訂版では,「コンピュータによる物理計測」など,とくに実 験機器の進歩によりその内容が大きく変わったテーマを中心に,追加や修正を 行った. ●『基礎分子遺伝学・ゲノム科学』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-5237-0.htm 坂本順司 著/B5判/240頁/2色刷/定価(本体2800円+税)/ 2018年9月発行/裳華房/ISBN978-4-7853-5237-0 C3045 #書店の店頭に並ぶのは10月になります.  本書は,遺伝子研究の成果を,分子遺伝学の基礎からゲノム科学の応用まで, 一貫した視点で解説した教科書である.遺伝子研究の基礎から展開までシーム レスにまとめるため,下記の3つの工夫をし,理解の助けとした.  1)第T部 基礎編と第U部 応用編を密な相互参照で結びつける.  前半と後半で関連する箇所を相互に結びやすいよう,多数の参照をカッコで 示した.そもそも基礎から応用までを一冊に収め,単著で一貫させたことも, 滑らかな接続に寄与している.  2)多数の「側注」で術語の意味・由来・変遷などを解説する.  歴史的事情から,遺伝学には多義的な学術用語も少なくない.また,生命科 学の他領域との関連も深く,脇道にそれてでも解説すべき用語がたくさんある. それらを「側注」の形にまとめ,本文の流れはスムースに保った.  3)多彩な図表とイラストで視覚的な理解を助ける.  DNA分子は小さく,遺伝子概念は抽象的なため,初学者にはわかりにくい落 とし穴もたくさんある.多彩でしかも統一のとれた図表と,感覚的になじみや すいイラストや写真を多用し,その問題点の克服に努めた. 【主要目次】 第T部 基礎編 分子遺伝学のセントラルドグマ 1.遺伝学の基礎概念 2. 核酸の構造とゲノムの構成 3.複製:DNAの生合成 4.損傷の修復と変異  5.転写:RNAの生合成 6.翻訳:タンパク質の生合成 7.転写調節(基本を 細菌で) 第U部 応用編 ヒトゲノム科学への展開  8.発現調節(ヒトな ど動物への拡張) 9.発生とエピジェネティクス 10.RNAの多様な働き  11.動く遺伝因子とウイルス 12.ヒトゲノムの全体像 13.ゲノムの変容と 進化 14.病気の遺伝的要因 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 新刊一覧】 https://www.shokabo.co.jp/book_news.html 【ご購入のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/order.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【2】近刊案内(2018年10月刊行予定) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ※詳細は次号のShokabo-Newsにてご案内いたします. ●『データサイエンスの基礎 Rによる統計学独習』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1578-8.htm 地道正行 著/B5判/256頁/定価(本体3200円+税)/2018年10月発行/ 裳華房/ISBN978-4-7853-1578-8 C3041 ●『理工系のリテラシー 物理学入門』 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-2263-2.htm 轟木義一・渡邊靖志 共著/B5判/256頁/2色刷/定価(本体2700円+税) /2018年10月発行/裳華房/ISBN978-4-7853-2263-2 C3042 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【裳華房 分野別書籍一覧】https://www.shokabo.co.jp/mybooks/0000.html 【正誤表などサポート情報】https://www.shokabo.co.jp/support/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【3】[連載コラム]松浦晋也の“読書ノート” (第36回) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  ノンフィクション・ライター/サイエンスライターの松浦晋也さんと鹿野司 さんに,お薦め書籍や思い出の1冊,新刊レビュー等をご執筆いただきます. 今回のご担当は松浦晋也さんです.  ・バックナンバーはこちら→ https://www.shokabo.co.jp/column/ ─────────────────────────────────── ◆ 二輪産業を締め上げた私達の「新しいもの嫌い」 ◆ ● おりもとみまな 著『ばくおん!!』(秋田書店) ● トネ・コーケン 著『スーパーカブ』(角川書店)  一つ質問、1980年に643万4524、2017年に64万6983――これが何か分かるだ ろうか。  答えは国内の二輪車生産台数である(日本自動車工業会調べ)。今や日本国 内におけるバイク産業は最盛期の1/10になってしまっているのである。壊滅と 言わねばならないほどの惨状だ。  その背後には若者がバイクに乗らなくなったという事情がある。車検がない ため維持費が安く入門用に購入されることが多い排気量126cc以上、250cc以下 のエンジンを搭載した軽二輪車の生産台数は、1980年に66万831台だったもの が、2017年には7万8993台にまで落ち込んでいる。  バイクが売れていた1970年代から80年代にかけて、『750ライダー』(石井 いさみ)、『ふたり鷹』(新谷かおる)、『バリバリ伝説』(しげの秀一)、 『風を抜け!』(村上もとか)、『TWIN』(六田登)、『ペリカンロード』 (五十嵐浩一)、『キリン』(東本昌平)など、数多くのバイクマンガが描か れた(ここでは暴走族マンガは除外する)。小説でも、1960年代の『汚れた英 雄』(大藪春彦)あたりを嚆矢に、『鉄騎兵、跳んだ』(佐々木譲)、『ボビ ーに首ったけ』(片岡義男)、『虹へ、アヴァンチュール』(鷹羽十九哉)な ど、バイクを主題にしたり重要なモチーフに使ったりした作品が生まれている。  では、2018年現在は? ということで今回の作品である。  『ばくおん!!』は、珍しくもバイク部のある女子高を舞台に、うかうかとバ イクに魅せられてしまった女子高生たちのドタバタを描いていくマンガだ。タ イトルからも分かるように、2009年から2010年にかけてアニメ化されて爆発的 人気を得たマンガ『けいおん!』(かきふらい。こちらは女子高の軽音楽部が 舞台)をなぞった構成になっていて、キャラクターの造形はかなり重なる。  ただし、ふわふわとした日常描写に徹しておよそ毒というものがなかった 『けいおん!』に対して、『ばくおん!!』はマニアックかつ毒の効いたギャグ を連発してくる。特に、スズキのバイク大好きの凜ちゃんというキャラがやら かすあれこれは、バイクを知る者には爆笑したり身につまされたりだ。なにし ろ彼女は、通学に使うカバンに「コスト!!!品質!!!生産性!!!それがすべて だ!!!」などとしゃべる“オサムちゃん人形”を吊しているのだ。言うまでも なくモデルは、業界の大先達であり強烈なキャラクターで有名な鈴木修・スズ キ代表取締役会長である。  これに対して、『スーパーカブ』は、ひたすら地味なヤングアダルト系小説 である。両親を失い、奨学金を得て高校に通う孤独な少女・小熊(こぐま)が、 ふとしたことから中古のスーパーカブ――ホンダが作り上げた世界に誇る傑作 バイクだ――を手に入れ、少しずつ生活が変化していく様子を丹念に描写して いく。それまでと比べると各段に行動半径が拡がり、カブを通じて友達ができ、 新たな体験をし、さらなる新たな体験へと踏み出せるようになり――この小説 においてスーパーカブは、小熊を新たな人生へと導く魔法の道具だ。カブを手 に入れたことで、小熊の生き方は少しずつ、しかし決定的に変化していく。  これもまた、『ばくおん!!』と同様に女子高生の物語だが、様相は大分異な る。毒のあるギャグを連発しつつも、基本的に『ばくおん!!』は社会的な責任 とは切り離された女子高生ライフを描くというところで、換骨奪胎した元の 『けいおん!』と同じ骨格を持っている。そこには成長の概念は希薄だ(しか も、主要登場人物のひとりは、決して学校から卒業しない妖精か神のような超 自然的存在である)。対して『スーパーカブ』は、古典的な成長の物語と言え るだろう。小熊はバイクに乗ることで自らの世界を拡げ、大人になっていく。  さて、バイク最盛期の1980年代と2018年の、バイクを巡る物語の違いは何か。 単純に主人公が男か女かということか。レースを中心に“闘争”にスポットが 当たった80年代に対して、女子高生のふわっとした日常が中心に座っている現 在という差異か。  実は一番の違いは、登場人物たちとバイクとの関わりだ。  かつてのバイク最盛期に発表された作品では、登場人物とバイクは切り離す ことができない。彼らとバイクは、のっぴきならない結びつきを持っている。 『バリバリ伝説』の主人公、巨摩郡(こま・ぐん)がバイクを降りるというの はとてもではないが考え難い。それは『ふたり鷹』の沢渡鷹と東条鷹も同じで ある。これらの作品には、「人生即バイク」と形容すべき切迫感がある。  連載途中で暴走族っぽい雰囲気から脱して青春グラフィティとなった『750 ライダー』でもこの切迫感は変わらない。あなたは、早川光がホンダCB750K2 から降り、二度と乗らないなどということを想像できるだろうか。光のナナハ ンのリアシートに委員長が乗らない日が来るなどと、考えることすら難しいで はないか。  そういう切迫感は、現在の2作品にはない。『ばくおん!!』のバイクのとこ ろを、なにか別の趣味に置換しても、彼女たちの高校生活は支障なく続くだろ う(実際、パラレルワールドという形で、そういうエピソードも描かれている)。 また、成人した小熊が結婚なり出産なりの人生の節目でスーパーカブを降りた としても、おそらく『スーパーカブ』という物語はきれいに完結するはずだ。  この関わりの変化をもたらしたのは、間違いなく現実におけるバイクの売り 上げ激減だろう。バイクとののっぴきならない関わりを「ああ、あるある」と 思う読者が減り、むしろバイクに乗ったことがない「バイクってどんなもの?」 という読者が増えたのだ。  では、なぜ1980年代に隆盛を極めたバイクは、若者の興味対象から滑り落ち たのか。  やはり「三ない運動」の影響は大きかったのだろうと思わざるを得ない。 「三ない」とは、高校生に対する「免許を取らせない」「買わせない」「運転 させない」の三つを徹底しようとする教育運動だ。1970年代に暴走族の増加に 伴って活発化。1982年には、全国高等学校PTA連合会が「三ない運動」推進 を決議するまでになった。もちろんこれに対して、「高校生からオートバイを 取り上げるのではなく、適切な使い方を教えるべきだ」という主にバイク業界 からの反論もあり、必ずしも全国が三ない運動一色に染まったわけではないが、 それでも2000年代に入るぐらいまで、免許を取得したりバイクを買ったことが 分かると処罰を受ける高校は存在し続けた。30年にも渡って、「バイクは危険 だ、バイクに乗るな、免許取って乗ったら処罰だ」という教育をする高校が全 国に散在していたわけだ。  一世代もそんなことを続ければ「バイクは危険だ、乗るのはバカだけ、乗る だけつまらない」と考える者が社会に拡がっていくのも道理である。そんな者 たちが親となった時に、子どもに何を言うかは明白だ。見る影もないバイク販 売台数の落ち込みの、少なくとも有力な原因の一つだと言えるだろう。  そもそも、三ない運動は、バイクという生活の中に入ってきた新たなモビリ ティに対して、「それを社会に定着させる」ではなく「やみくもに拒否する」 というラダイト運動の一種であった。また、教育という観点では「新しいモビ リティに対する教育を行う」ではなく「教育を拒否することで、問題そのもの を消滅させる」という教育の敗北ともいうべき運動だった。  ではなぜ、そんな三ない運動がはじまったのか。  根底には「今日と同じ明日がいい」「新しいものは違う明日を持ってくるか らいらない、拒否する」という私たちの心のありようが存在している――私は そうみている。それは「今日を変えることで、明日がよりよいものになる」と いう考えと真っ向から対立するものだ。毎日勤勉に同じ作業をしていると秋の 実りが保証される農耕民族的思考とか、色々分析はできるかもしれない。  新しいものを一律拒否する心が、三ない運動となったのである。  そもそも、1950年代にバイクの普及が始まった時、最初に飛びついたのは比 較的裕福な家庭の子弟で、しかも新しいものが好きな者だった。彼らはバイク という新しい道具に夢中になり、より速く走らせようと工夫した。それが、カ ミナリ族を生んだ。  カミナリ族とは、エンジン高出力化のためにバイクのマフラーをいじり、結 果として大音響を振りまくようになったバイクを乗り回した若者たちのことを 指す。彼らは大音響と共に大人社会への反抗の象徴ともなった(大音響と反抗 が結びつくあたりは、少々ロックンロールとも似ている)。  三島由紀夫の戯曲「美濃子」(1963年)には、主人公の豊ら若者がバイクに 乗り「マフラーは外せ。単車はとどろく。腐った奴らは、みんな轢き倒せ。  我ら素戔嗚(スサノオ)!いざ戦はう。古きを倒せ。」と叫ぶシーンがある。  新しいテクノロジーに心酔し、社会への不満を抱く若者が出現した時、社会 は何をすべきか――そのテクノロジーを抱き込み社会に適応させ、テクノロジ ーを使うよりよい社会へと自らを変革すべきである。  が、1950年代から60年代にかけて、カミナリ族が発生した日本は、そのよう には動かなかった。むしろカミナリ族を忌避し、遠ざけたのである。  その結果、何が起きたか。カミナリ族から暴走族への変化である。  「蒸気機関車が走ってくると、向こうからも蒸気機関車が走ってきた。機関 手が必死でブレーキを掛けたが衝突。その瞬間向こうの蒸気機関車は消え、後 に狸の死骸が残っていた」というような伝承を、民俗学は「蒸気機関車という 新しい技術を、旧来の共同体が“狸が化かす”という伝承を使って自らの裡に 取り込んでいった」と読み解く。  暴走族は、バイクという新しいテクノロジーを、古い「今日と同じ明日がい い」という了解を持つ共同体が、受け止め、自らの裡に取り込むプロセスその ものであろう。  カミナリ族はバイクが好きだったが、暴走族は別にバイクが好きでもなんで もない。  彼らにとってバイクも暴走行為も「いつか卒業する対象」であり、目的は 「今、仲間とつるんで走り、若い自己顕示欲を満足させる」ところにある。そ の機能は、日本各地に存在した若者が一時親元を離れて若者だけで生活を営む 若衆宿そのものだ。若衆宿は古い共同体にもとから存在したものなので、カミ ナリ族を理解できなかった社会も、暴走族は「しょうがないなあ」と許容でき る。  暴走族に参加した当時の若者の多くが、驚くほど古い価値観に従順であった ことは意識しておくべきだ。彼の多くは「バカやるのは今だけ」「ハタチにな ったらバイクを降りてクルマを買う」「そしてお父さんお母さんに孝行する」 と語っていたのである。  それは、社会の大多数にとって理解できる感情であり、それ故、1980年代か ら90年代にかけて、不良マンガのサブジャンルとして暴走族マンガが多数流通 したのであった。  結果、日本では、バイクという道具を、社会の中に便利かつ楽しい道具とし て位置付けるという作業は、中途半端に終わってしまった。それは1990年代以 降、日米貿易摩擦に伴う日米交渉の中で、ハーレー・ダビッドソンを擁する米 国からの要求に対してしぶしぶ譲歩をするという形で徐々に実現することにな る。750cc以上の大排気量車の販売解禁、400cc以上のバイクに乗れる大型免許 の教習所での取得、高速道路における制限速度を自動車と同等の100km/hにす ること、高速道路での二人乗りの解禁、普通車と同等だった高速料金を軽自動 車と共に引き下げ――これらは外交との絡みの中で実現していった。  その一方で、教育の放棄と形容すべき三ない運動は、理由もなく「バイク怖 い」「バイク危険」と考える層を増やしていった。暴走族の振りまく社会的迷 惑が、その印象をさらに強化する。  その結果が冒頭に述べた1980年に643万4524、2017年に64万6983、という数 字であろう。今、日本のバイクメーカーはそれぞれ旺盛な需要のある東南アジ アに進出し、現地の需要に応じた車種を現地生産するようになっている。つま るところ、新しい技術、新しい道具への無理解と無策で、私たちの社会はほぼ 半世紀をかけて国内産業をひとつ潰したのである。  話を、本に戻そう。  『ばくおん!!』も『スーパーカブ』も、そんな社会に対してもう一度「バイ クって面白いよ、楽しいよ」と語りかける試みと位置付けられるだろう。その 次には、1980年代のバイクマンガのように、バイクという道具と切り離すこと ができない自分を描くマンガや小説が出てくるのではなかろうか。  現在「サンデーGX」誌で連載中のバイクマンガ『ジャジャ』(えのあきら) はクラシックバイクへのマニアックな執着をテーマに据えることで、「バイク と共に歳月を重ね、生きていく自分」を描いている。また『グッバイエバーグ リーン』(大森しんや)は、祖父の古いバイクを受け継いだ女の子がバイクと 共に成長し、生きていく姿を描き切った。一見『スーパーカブ』と似た構成だ が、描かれる動機にはかなり強い「バイクと共にいつまでも生きる」という切 迫感がある。  その流れの中で、ついにメジャー誌である「アフタヌーン」でかつてのよう にバイクレースを主題に据えた『トップウGP』(藤島康介)が連載されるよ うになった。  さあ、人口減少局面に入った日本社会でバイクの楽しみは、社会に受け入れ られるであろうか。  バイクは危ない乗り物というのは間違いない。が、同時にバイクでしかでき ない体験もある。無理にバイクに乗ることはない。しかし、ひとたび乗りたい と思った者を周囲が制止してもいけない――私はそう考えている。  ところで、「何を熱く語っているんだ」と怪訝に思ったあなた、そうです。 筆者は36年間バイクに乗り続け、今や手元にそれぞれ車齢20年を超えたサビだ らけのバイクを3台所有する、自分でいうのもナニなのですが“筋金入り”な のでした。 【今回紹介した書籍】 ●『ばくおん!!』(既刊11巻) おりもとみまな 著/定価(本体562円〜600円+税)/2012年12月〜2018年4月 秋田書店 https://www.akitashoten.co.jp/comics/4253256260 #上記URLは第1巻。 ●『スーパーカブ』(全3巻) トネ・コーケン 著/定価(本体600円〜620円+税)/2017年5月〜2018年5月 文庫判/角川書店 https://www.kadokawa.co.jp/product/321701000507/ #上記URLは第1巻。 【松浦晋也さんのプロフィール】 ノンフィクション・ライター.1962年東京都出身.現在,PC Online で「人と 技術と情報の界面を探る」,日経トレンディネットで「“アレ”って何? 読 めばわかる研究所」,日経テクノロジーで「小惑星探査機はやぶさ2の挑戦」 を連載中.主著に『母さん、ごめん。』『小惑星探査機「はやぶさ2」の挑戦』 『はやぶさ2の真実』『飛べ!「はやぶさ」』『われらの有人宇宙船』『増補 スペースシャトルの落日』『恐るべき旅路』『のりもの進化論』などがある. Twitterアカウント https://twitter.com/ShinyaMatsuura       「松浦晋也の“読書ノート”」 Copyright(C) 松浦晋也,2018 ※本コラムは本メール配信約1か月後を目安に裳華房Webサイトに掲載します. https://www.shokabo.co.jp/column/ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 【オンデマンド出版書籍】 https://www.shokabo.co.jp/mybooks/d-pub.html 【電子書籍のご案内】  https://www.shokabo.co.jp/ebooks/index.html 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【4】お知らせ&編集後記 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇お知らせ ─────────────────────────────────── 1.訂正表・正誤表や新しい演習問題など「書籍のサポート情報」.   https://www.shokabo.co.jp/support/index.html 2.裳華房 総合図書目録   https://www.shokabo.co.jp/catalogue/index.html ─────────────────────────────────── ◇編集後記 ───────────────────────────────────  めっきり涼しくなり,ノーベル賞の発表の季節となりました.この年はどな たが(どんな研究が)受賞するのか,今から楽しみです.  秋の裳華房フェアですが,下記の大学で開催する予定です(開催期間は変更 する場合がございます). ・東北大学生協 理薬店 11/5〜12/28 ・茨城大学生協 水戸店・工学部店 11/1〜12月下旬 ・早稲田大学生協 理工店 11/5〜12/27 ・法政大学生協 小金井店 11/1〜12月下旬 ・立命館生協 リンクスクエア 11/1〜11/30 ・岡山大学生協 11/12〜12/28                                (TK) ─────────────────────────────────── 次号は2018年10月下旬の配信予定です.どうぞお楽しみに! \\(^o^)// ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★ Shokabo-Newsの配信停止・アドレス変更は下記URLよりお願いします ★ https://www.shokabo.co.jp/m_list/m_list.html メールマガジンのご意見・ご感想は [email protected] まで. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 自然科学書出版 (株)裳華房 〒102-0081 東京都千代田区四番町8-1 Tel:03-3262-9166 Fax:03-3262-9130 電子メール:[email protected] URL:https://www.shokabo.co.jp/  Twitterアカウント:@shokabo 【個人情報の取り扱い】 https://www.shokabo.co.jp/policy.html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Copyright(c) 裳華房,2018      無断転載を禁じます.



         

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